Index? Top ?我が名は絶望――

第2節 単純な方法?


「え?」
「戦い方が知りたいんだろ? だから見せてやる。お前が求めている方法……一日で覚えられて、自分より強い相手を倒す方法なら、ないこともない」
 緩く腕組みをしたまま、ディスペアは告げた。
「いいの?」
 ミストは確認するように訊いてくる。さすがにためらっているようだった。いきなり攻撃を仕掛けてこいと言われれば、誰でも躊躇するだろう。
 ディスペアは両腕を広げて、
「俺は、お前にやられるほど未熟ではないから、遠慮せず攻撃しろ。俺を自分が倒したい敵だと思って、全力でかかってこい」
 その言葉で、目の色が変わった。跳ねるように立ち上がると、ミストは懐に手を入れ二枚の呪符を取り出す。
「雷舞!」
 数条の細い稲妻が空を走った。初級の攻撃魔法である。それほど強い攻撃力はないものの、食らって平気なものでもない。直撃すれば、神経が麻痺してしばらく動けなくなるだろう。あくまで食らえばだが。
 地面を蹴って、ディスペアは横に跳んだ。意識もせずに雷撃を躱す。
 媒介としての役割を終えて崩れる呪符から手を離し、ミストは新たな呪符を取り出した。右手で剣を抜き、袈裟懸けに斬りかかってくる。太刀筋は、思ったよりも悪くはない。
(一応、我流でも訓練はしているというわけか)
 納得しながら、ディスペは気を引き締めた。
 剣を振り下ろすミストを見つめ、
「はァッ!」
 裂帛の気合とともに鋭い気を吐き出す。ほんの十分の一秒にも満たない一瞬。形もない不可視の刃が、空を斬り裂いた。それは一直線にミストの身体を貫いていく。
「――!」
 その瞬間、金縛りにあったようにミストの動きが止まった。剣を止め、身体を硬直させる。ミスト程度の胆力で、これを防ぐことはできない。
 あとは何もいらなかった。一足に密着し、みぞおちに勢いよく貫き手を伸ばす。このまま貫き手を突き刺せば、ミストは悶絶して倒れるだろう。今は練習なので、寸止めで当てはしない。
「こういうことだ」
「………」
 ディスペアが手を引くと、ミストは声もなくその場に崩れた。力の抜けた手で剣を鞘に収め、取り出した呪符を懐にしまう。身体の震えを抑えるように深呼吸をしてから、恐怖を含んだ声を出した。
「何……今の……?」
「殺気を叩きつけて相手の動きを止める技だ――。効果は、お前自身が身を以て知っただろう? 二流未満の相手なら、これで大体の動きを封じられる」
 答えながらディスペアは焚き火の隣に腰を下ろす。さっき座っていた場所だ。近くに置いてある鞄から、二人分の食器と乾パンを取り出した。
 ミストは地面にへたり込んだまま、這うようにして焚き火の横まで移動する。足腰に力が入らないようだった。ぶつけた殺気が強すぎたらしい。だが、別に怪我をしたわけではないので、放っておけば元に戻るだろう。
 ディスペアを見つめ、ミストは半分ほど立ち直った声を出す。
「でも、結局……。自分より強い相手を倒す方法って、どういうことなの……?」
「ふむ」
 ミストの問いに、ディスペアは視線を落とした。どうやら、今の一戦だけでは理解できなかったようである。言葉で説明する方が早いだろう。
 視線をミストに戻し、食器とパンを渡しながら、
「端的に言うならば、変則技。つまり、相手の虚を突くことだ。相手の意図せぬ一撃で動きを止め、その隙に決定打を叩き込む。これなら、お前でも使えるだろう」
「――それって、効くの?」
 食器とパンを受け取りながら、ミストが呻いた。自分自身で体験していながら、実際に通用するのか疑わしいらしい。胡散臭いのは確かだ。
「それは、お前と相手次第だな」
 ディスペアは自分の分のスープを器に取りながら、
「お前の技が甘いか、相手に変則技を受け流せる技量があるか。どちらかが成り立てば、この方法は通じない。それに、使えるのは一度だけだ。念のため言っておくが、お前の力では、今の殺気を叩きつける技は使えないからな。あとは自分で考えろ」
「うーん」
 ミストは目を伏せて、思案するように眉を寄せる。どうすれば自分が相手の虚を突けるか考えているのだろう。だが、相手の虚を突く方法など、そうそう思いつくものでもない。思いついても、通じるとも限らない。
 ディスペアはパンを野菜スープに浸し、口へと運んだ。
「食事が終わった後には正攻法の戦い方も教えてやる。三日で目に見えるほど上達するものでもないが、気休め程度の効果はあるだろう」
「うん」
 視線を焚き火に向けたまま、上の空で答えるミスト。残ったスープを器に取って、さっさと食事を始める。その態度からするに、どうやら正攻法には関心がないらしい。
「さて」
 ミストから目を離し、ディスペアは空を見上げた。生い茂る木々の間から、いくつかの星が見える。月は見えなかった。木に隠れているのか、出ていないのかは分からない。
「これから、俺はどうすればいい?」
 声に出さずに、自問する。これが自分にとって最大の疑問だった。
 いくつか選択肢は考えられる。しかし、どの選択肢を選べばいいかは分からない。
 ただ、どれを選んでも面倒なことになるのは確実だった。

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