Index Top 我が名は絶望――


第1章 黒衣の拳士 第2節


「ああ。いるな」
 食事の手を休めて、ディスペアは天井を見上げた。噂は何度か耳にしている。最近、フルゲイトを探す発掘隊が結成された、と。
「クロウ・ガンドの発掘隊」
 独り言のように、ミストが呟く。
「ハロッツ魔法研究所の所長クロウ・ガンドが結成した発掘隊よ。あいつらは、フルゲイトの在り処を示した文献を持っている。きっとフルゲイトを見つけるわ」
「あてにはならないな」
 ミストから目を離し、ディスペアは呻いた。
「フルゲイトの遺産を探す発掘隊は今まで何度も結成されている。その多くが、フルゲイトの在り処を示した文献を持っていると自称していた。だが、フルゲイトを発見した発掘隊はひとつとしてない」
「でも、今まで見つからなかったからって、今回も見つからないとは限らないわよ」
 瞳に強い意志を湛えて、ミストは言い返してくる。
 言っていることは正しい。過去の結果と、現在の結果は関係がない。今までが失敗でも今回も失敗とは限らないのだ。逆に、今回が成功とも限らないのだが。
 ディスペアは目蓋を下げて、
「ようするに、お前は何をしたいんだ?」
 訊くと、ミストはぐっと拳を握った。熱い口調で答えてくる。
「あいつらより早くフルゲイトを見つけるのよ! 大昔に作られたものだから、今は誰のものでもないでしょ。あいつらが見つける前にあたしが見つければ、フルゲイトはあたしのものよ!」
「そうだな――」
 古い遺跡などから発掘されたものの多くは、基本的に誰の所有権も発生しない。発見した者が、所有権を行使できるのである。分かりやすく言えば、見つけた者勝ち。フルゲイトをミストが見つければ、ほぼ無条件でミストのものとなる。
 ディスペアは最後の一口を口に運んだ。
「それで、お前はフルゲイトを使って何をしたいんだ?」
「え……?」
 言葉に詰まるミスト。目が点になっている。そこまでは考えていなかったらしい。虚ろな視線をどこへとなく漂わせてから、一転して開き直ったように言い切った。
「その時に考えるわよ!」
「そうか」
 呟いてから、ディスペアはミストを見つめる。今まで言われたことを頭の中で繰り返して、短くまとめた。相手に向けた視線に力を込め、
「つまり、お前はフルゲイトを横取りしたいんだな。だが、自分一人では力不足。それで、発掘隊を出し抜くために俺の力を借りたい、と」
「うーん。言い方悪いけど、そういうことね――」
 気まずそうに笑いながら、ミストは頭をかいて、
「引き受けてくれる?」
 期待の眼差しを受け止め、ディスペアは瞑想するように目を閉じた。自分はこの依頼を引き受けるべきか否かを、考える。
 答えは半秒も経たずに出た。
 目を開き、それを口に出して告げる。
「分かった。引き受けよう」
「ありがとう」
 嬉しそうに笑い、ミストは鞄に手を伸ばす。
「じゃあ、報酬は――」
「言い値でいい」
 ディスペアはこともなげに言い放った。
 それを聞いたミストの顔が、固まる。言い値でいい、と言われたことが信じられないらしい。平坦な声音で、確認するように問いかけてきた。
「言い値って、いいの……?」
「構わない――。俺は傭兵ではないからな。金のために動いているわけではない。俺は、俺自身の目的のために動いている。金に興味はない」
「あ。そう……?」
 頷きながらも、ミストは釈然としない面持ちだった。言われたことの真意が分からないのだろう。分かってもらうこともない。
 気を取り直すように咳払いをして、ミストは椅子から立ち上がる。
「とにかく、早く出発しましょう」
「待て」
 ディスペアは静止するように手を上げた。
「フルゲイトを探しに行く前に、よる所がある」
「よる所?」
「ああ――。俺は今、知り合いに呼ばれている。俺はこれからそいつの所に行かなければならない。用事は小一時間で終わると思う。フルゲイトを探しに行くのは、その後になりそうだが。いいか?」
「……いいけど」
 ミストは不服そうに答えた。本心では、即座にフルゲイトを探しに行きたいのだろう。だが、下手に文句を言えば依頼を断られると考えたのか、反論はしてこなかった。
「それと、もうひとつ」
 言いながら、ディスペアは食べ終わった料理の食器に指を向ける。つられて、ミストも食器を見つめた。空の食器。野菜のかけらが、底に張りついている。
「これの代金、払ってくれないか? 俺は今、金を持っていない」
「……?」
 ミストの瞳に疑惑の光が浮かんだ。

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